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建築費増加について徹底解説!!

2025.05.16

  • 関西の建設・不動産業界
建築費高騰が続く建設業界の今を知る。

資材高騰、人手不足、働き方改革…複合的な要因が価格を押し上げる現状を解説。業界はDX推進や省人化で活路を見出す。
求められるのはコスト意識、技術対応力、コミュニケーション能力を持つ人材。

転職を考えるあなたへ、建設業界で新たなキャリアを築くための必読情報。

建築費高騰時代を乗り切る!建設業界の現状と未来、そして求められる人材像

近年、私たちの生活に身近な「住まい」や社会インフラを支える「建築物」の価格が上昇し続けています。この「建築費の増加」は、建設業界全体に大きな影響を与え、そこで働く人々、そしてこれから業界を目指す求職者の皆さんにとっても無視できない課題となっています。

実際に、建設物価調査会が発表している「建築費指数」(2015年度平均=100)を見ると、2024年1月時点の総合指数は130.6と、基準年から約3割上昇しており、特にここ数年での上昇が顕著です。この背景には何があるのでしょうか。

本記事では、建築費が高騰している背景、それが業界にどのような影響を及ぼしているのか、そしてこの厳しい時代を乗り越え、未来を築くために建設業界がどのように変化し、どのような人材が求められているのかを詳しく解説します。

なぜ建築費は上がり続けているのか?複合的な要因を解説

建築費の上昇は、単一の理由ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発生しています。主な要因を具体的に見ていきましょう。

  1. 資材価格の歴史的な高騰:「ウッドショック」から「アイアンショック」、そしてエネルギー価格の上昇

    記憶に新しいのは、2021年頃から顕著になった「ウッドショック」です。新型コロナウイルス感染症拡大による世界的な物流の混乱や、リモートワーク普及に伴う住宅需要の急増などが重なり、木材価格がかつてないほど高騰しました。

    その後も、鉄骨造の建物に不可欠な鋼材価格も高止まりしています。建設物価調査会のデータによれば、例えば「鉄骨(S造)」の建築費指数は2024年1月時点で150.3と、基準年から5割以上も上昇している状況です。これは、ロシアによるウクライナ侵攻などを背景とした鉄鉱石やエネルギー価格の高騰、さらには円安が大きく影響しています。

    さらに、原油価格の高騰は、ガソリンや軽油などの輸送コストだけでなく、石油を原料とする多くの建材(塩化ビニル管、断熱材、塗料など)の価格上昇にも直結しています。これらの資材価格の上昇は、建築コスト全体を押し上げる大きな要因となっています。

  2. 深刻化する人手不足と労務費の上昇:働き方改革も影響

    建設業界は、かねてより他産業と比較して高齢化が進み、若年層の入職者減少による人手不足が深刻な課題でした。団塊世代の大量退職も進み、熟練技能者の確保がますます難しくなっています。

    このような状況に加え、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用されるなど、「働き方改革関連法」が本格的に施行されました。労働環境の改善は急務である一方、限られた人員で業務を遂行するためには、労務単価の上昇は避けられません。国土交通省が毎年発表する公共工事設計労務単価も、2024年3月から全国全職種単純平均で前年度比5.9%引き上げられ、12年連続の上昇となりました。この動きは民間工事の労務費にも影響を与え、建築費指数における労務費関連の項目も上昇傾向を示しています。

  3. 為替変動(円安)の影響:輸入資材の価格上昇

    日本は、木材や鉄鉱石、アルミニウムなど、多くの建設資材を輸入に頼っています。そのため、円安が進行すると、輸入資材の円建て価格が上昇し、建築コストを押し上げる要因となります。近年の急速な円安は、この傾向に拍車をかけています。

  4. 物流コストの上昇とサプライチェーンの混乱

    燃料費の高騰やドライバー不足により、物流コストも上昇しています。また、自然災害や国際情勢の不安定化は、グローバルなサプライチェーンに混乱をもたらし、資材の安定供給を脅かす要因ともなっています。これにより、資材調達の遅延やコストアップが発生しやすくなっています。

  5. 環境意識の高まりと高性能化への要求

    脱炭素社会の実現に向け、建築物にも省エネルギー性能の向上や環境負荷の低減が求められています。高性能な断熱材やサッシ、太陽光発電システムなどの導入は、初期コストの増加につながる場合があります。また、自然災害の激甚化に対応するための構造強化なども、建築費を押し上げる要因となり得ます。

建築費高騰が建設業界に与える影響

建築費の高騰は、建設業界の様々な側面に影響を及ぼしています。

  • 建設プロジェクトの採算悪化・遅延・中止リスク: 契約時から資材価格や労務費が大幅に上昇した場合、建設会社は採算が悪化し、最悪の場合、赤字受注となる可能性もあります。発注者側も、当初予算を大幅に超える場合は、プロジェクトの規模縮小や延期、あるいは中止を検討せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。
  • 企業の収益圧迫と経営への影響: 特に体力のない中小企業にとっては、資材価格や労務費の上昇分を適切に価格転嫁できなければ、収益が大幅に圧迫され、経営が困難になるケースも出てきています。
  • 住宅価格・不動産価格への転嫁: 新築マンションや戸建て住宅の販売価格は、建築費の上昇を反映して高騰が続いています。これは、住宅購入を検討している人々にとって大きな負担となっています。また、賃貸物件の家賃にも影響が及ぶ可能性があります。
  • 公共事業への影響: 公共工事においても、予定価格と実勢価格の乖離が大きくなると、入札不調が頻発する可能性があります。これは、社会インフラ整備の遅れにつながる懸念があります。

変化への挑戦:建築費高騰時代を乗り切るための取り組み

このような厳しい状況に対し、建設業界も手をこまねいているわけではありません。様々な対策や新しい動きが見られます。

  1. コスト管理の徹底と生産性向上への取り組み:
    • DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進: BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)の導入による設計・施工の効率化、AIを活用した工程管理や見積もり精度の向上、ドローンやロボット技術の活用による省人化など、デジタル技術を駆使した生産性向上が急務となっています。
    • オフサイト生産の推進: 部材やユニットを工場で生産し、現場での作業を減らすプレハブ化やモジュール化は、工期短縮や品質安定化、コスト削減に貢献します。
    • サプライチェーンの見直し: 複数の調達先の確保、代替材料の検討、資材の共同購入など、より安定的かつ効率的な資材調達方法が模索されています。
  2. 適正な価格転嫁への理解促進: 発注者に対し、資材価格や労務費の上昇分を適切に工事価格に反映することの重要性を訴え、理解を求める動きが強まっています。これは、建設業界全体の健全な発展のために不可欠です。
  3. 人材育成と確保、魅力ある職場環境づくり: 人手不足の解消は喫緊の課題です。若年層や女性、外国人材など、多様な人材が活躍できる環境整備(労働条件の改善、多能工育成、キャリアパスの明確化など)が進められています。また、技術革新に対応できる人材育成も重要です。
  4. 持続可能な建築へのシフト: 長期的な視点で見れば、省エネルギー性能の高い建築物や、環境負荷の低い建材の利用は、ライフサイクルコストの低減につながります。また、リサイクル材の活用や廃棄物の削減といった循環型経済への対応も求められています。

建築費高騰時代に求められる人材像とは?

このような変化の時代において、建設業界ではどのような人材が求められているのでしょうか。

  • コスト意識とマネジメント能力: 厳しいコスト環境の中で、いかに効率的にプロジェクトを進められるか、予算管理能力や交渉力が重要になります。
  • 新しい技術への対応力と学習意欲: BIM/CIMやAI、ロボット技術など、進化し続けるテクノロジーを積極的に学び、活用できる人材は、今後ますます価値が高まります。
  • コミュニケーション能力とチームワーク: 設計者、施工管理者、職人、そして発注者など、多くの関係者と円滑に連携し、プロジェクトを成功に導くコミュニケーション能力は不可欠です。
  • 課題解決能力と柔軟性: 予期せぬ資材の遅延や価格変動など、様々な困難に直面した際に、冷静に状況を分析し、柔軟な発想で解決策を見つけ出せる能力が求められます。
  • 環境意識と持続可能性への関心: SDGsや脱炭素社会への関心が高まる中、環境配慮型の設計・施工に関する知識や意識を持つ人材は、企業の持続的成長に貢献できます。

おわりに:厳しい今だからこそ、チャンスがある

建築費の高騰は、建設業界にとって大きな試練であることは間違いありません。しかし、この変化は、旧来のやり方を見直し、新しい技術や考え方を取り入れ、業界全体が進化する大きなチャンスでもあります。

建設業界は、人々の生活や社会活動を支える基盤を創り上げるという、非常にやりがいのある仕事です。厳しい状況だからこそ、それを乗り越えようとする企業の努力があり、そこで活躍できる人材には大きな可能性があります。

これから建設業界を目指す皆さんには、この現状を理解した上で、変化を恐れず、新しい価値を創造していく気概を持って飛び込んできてほしいと願っています。未来の建設業界を共に築いていきましょう。


【注】 建築費指数や労務単価の数値は、公表時期や対象によって変動します。本記事では、執筆時点(2024年5月)で参照可能な比較的新しい情報に基づいて記載していますが、常に最新の情報をご確認いただくことをお勧めします。建設物価調査会や国土交通省のウェブサイトなどで最新データが公表されています。

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