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【後半】借地借家法第32条とは?定期借家契約・普通借家契約との違いと実務での活用ポイント

2025.09.19

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前回の記事では、借地借家法第32条の賃料増減請求権について解説しました。今回はその続編として、同条文の第1項・第2項に焦点を当て、賃料交渉における法的枠組みを整理します。特に、契約形態によって賃料改定の可否や交渉の余地が異なるため、定期借家契約と普通借家契約の違いを理解することは、実務上極めて重要です。この記事では、借地借家法第32条の条文解釈とともに、契約形態の背景や実務への影響を詳しく解説し、賃貸経営や不動産管理における信頼性と市場価値向上のヒントを提供します。

1. 借地借家法第32条の概要と実務的な意味

借地借家法第32条は、賃料の増減に関する貸主・借主双方の権利を定めた条文です。

  • 第1項では、土地・建物の価格変動、近隣の賃料相場、経済事情の変化などを理由に、賃料の増減請求が可能であることが規定されています。これは、契約期間中であっても、状況に応じて賃料を見直すことができる柔軟な仕組みです。
  • 第2項では、増額請求に対して借主が**「相当と認める額」**を支払えば、裁判確定まではそれで足りるとされており、借主の防御策として機能します。ただし、裁判で増額が認められた場合には、既支払い賃料と増額賃料の期間中の差額(不足分)の支払いに加えその不足分に年1割の利息を付して支払う義務があります。

実務では、**調停前置主義(民事調停法24条の2)**により、訴訟前に調停を申し立てる必要がある点も重要です。賃料交渉がこじれた際のリスク管理において、借地借家法第32条は不可欠な知識です。


2. 普通借家契約と定期借家契約の違い

契約形態によって、賃料交渉の余地や法的保護の範囲が大きく異なります。

 普通借家契約

  • 契約期間満了後も更新が原則
  • 借主が希望すれば契約は継続される
  • 貸主が更新拒否するには**「正当事由」**が必要。
  • 賃料増減請求権は借主・貸主双方に認められる
  • 借主保護が強く、長期居住が可能

 定期借家契約

  • 契約期間満了で自動的に終了。更新の概念なし。
  • 再契約には貸主の同意が必要
  • 契約時に**「定期借家契約であること」を書面で説明する義務**あり。
  • 賃料増減額をしない旨の特約があれば、貸主の増減額請求は不可。

契約形態によって、借地借家法第32条の適用範囲が変わるため、契約書の内容確認は極めて重要です。


3. 定期借家契約はなぜ制定されたのか?

定期借家契約は、2000年の借地借家法改正により制定されました。その背景には、空室率の上昇や貸主側のリスク回避ニーズがありました。普通借家契約では、借主の保護が強すぎて、貸主が自由に契約を終了できないという問題がありました。

定期借家契約は、貸主にとって契約期間終了後の自由度を高める一方で、借主にとっては契約期間中の安定性を確保する仕組みです。特に、企業の社宅や短期賃貸、建替え予定の物件などにおいて、定期借家契約は柔軟な運用が可能となります。

ただし、契約時の説明義務や書面による契約が必須であるため、実務では慎重な対応が求められます


4. 借地借家法の理解が信頼性と市場価値を高める

借地借家法第32条の理解は、賃貸経営や不動産管理における信頼性と専門性を高める重要な要素です。契約の種類や特約の有無に応じた適切な対応ができるかどうかは、オーナー・管理者・関係者間の信頼構築に直結します。

賃料改定の交渉において、法制度に基づいた説明や対応ができる企業・担当者は、契約トラブルの予防や迅速な処理が可能となり、社内外からの評価も高まります。これは、事業者としてのブランド力や管理物件の価値向上にもつながり、競合との差別化を図る上でも大きな強みとなります。

借地借家法第32条のような基礎的かつ実務的な法知識は、単なるリスク管理ではなく、信頼される不動産事業者としての市場価値を高める戦略的資産です。


【終わりに】

借地借家法第32条や契約形態の違いは、賃貸経営・不動産管理において極めて実務的な知識です。こうした法制度への理解を持つ企業や担当者は、契約交渉やトラブル対応において一歩先を行く対応が可能となり、オーナー・テナント双方からの信頼を獲得できます。

法的知識を備えた人材の育成や採用は、企業価値を高める重要な戦略です。契約実務に強い組織は、物件管理の質を高め、顧客満足度を向上させることができます。

「この会社なら安心して任せられる」と思われる存在になるために、法制度の理解を企業文化として根付かせることが、今後の不動産業界での競争力強化につながります

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