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【建築・不動産業界の人材戦略】大卒採用8割減の理由とは?質を重視する企業の真意と生存戦略

2025.06.13

建築・不動産業界がいま、大きな岐路に立たされている。慢性的な人手不足と若手離れが進む一方で、業績は堅調。そんな状況下で、新卒採用数を大幅に削減する企業が増えている。量を追い求めた過去からの脱却と、持続可能な成長を見据えた質重視への転換――この戦略に、次代を生き抜くヒントが隠されている。

1.大量採用からの脱却――「適正人員」への見直し

建築・不動産業界では、これまで現場の人手確保を最優先する大量採用が主流だった。しかし、ここに来てその前提が揺らいでいる。大和ハウス工業は、2025年春に大卒・院卒で669人を採用したが、2026年卒ではわずか150人と、採用数を約8割削減する方針を打ち出した。

この急激な採用減の背景には、単なる経費抑制ではなく、中長期の人材最適化に対する強い危機感がある。同社は「適正人員の見極め」のため、これまでの積み上げ型計画から経営判断によるトップダウン型採用へと転換。間接部門のスリム化を進めながら、営業部門へと人材を再配置し、現場で稼ぐ力の強化を図っている。

2.リストラなき構造改革――TOPPANの採用戦略

TOPPANグループもまた、採用戦略の見直しに踏み切っている。2026年春の採用計画は約300人で、前年より100人減。過去3年間の平均比で約3割削減という社内方針を掲げており、採用数の調整を通じて組織再構築と人件費最適化の両立を目指している。

注目すべきは、「黒字のままリストラに踏み切るような経営にはしない」という価値観を貫く姿勢である。さらに、半期業績や離職率に応じて採用枠を柔軟に調整できる制度を導入し、組織の健全性を保ちながら戦略的に人材配置を行っている。成長事業には人を投じ、停滞部門では抑制するという明確なメリハリがある。

3.マスからジョブへ――富士通に見る採用方法の再定義

業界を超えて注目されているのが、富士通のジョブ型新卒採用の導入だ。これまでのように期初に人数を決めて一括採用するのではなく、職務内容を明示したジョブ型雇用を通年で実施。現場ニーズに基づいて必要なタイミングで採用し、人数確保ではなく、適性と即戦力を重視する方向へ舵を切った。

このモデルは、従来の“とりあえず確保”という発想とは一線を画す。建築・不動産業界においても、施工管理・設計・開発などの職種ごとに求められるスキルを明確化し、ターゲットを絞った採用活動が求められるようになる。マスリクルーティングの終焉と、戦略的人材配置の重要性がいよいよ顕在化してきた。

4.「量」より「質」へ――人材育成の責任と覚悟

採用人数の削減は、現場にとって単なる「人手不足」の課題ではない。大和ハウスでは、「マス(集団)」から「個(人)」を重視した人材育成方針へと大きく転換。少数精鋭体制の中で、1人ひとりの新人を丁寧に育てる責任感が、現場の文化として定着しつつある

少子化が加速する中で、若年層の採用は今後ますます困難になるだろう。そのため、企業には「採る」力だけでなく、「育て」「定着させ」「活かす」力が不可欠となる。人材を資本と捉える経営姿勢が問われる今、育成戦略の質が企業の未来を左右する時代が本格的に始まっている。

終わりに

日本企業にとって、新卒採用は経営戦略そのものと直結している。とりわけ建築・不動産業界では、「質」と「適性」への目利きが将来を左右する。採用のあり方が変われば、組織の未来も変わる――そうした時代の入り口に、私たちは立っている。

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